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テレビCM「過払金が戻ります」

 以前、弁護士にテレビ広告などは許されていなかった。「士」という文字から連想可能かも知れない「武士は食わねど高楊枝」という言葉すら連想されるような、営利からは一歩離れた位置に身を置くことを求められる様な、規制と職業倫理の世界だった。そして、それでも食べていくことが、できていた。
 それが、解禁されるや、本拠の事務所は他の都道府県にある事業者が、洪水のようなコマーシャルメッセージをテレビやラジオに流すようになった。隣接業種でも同様なことが起きた。多くは「過払金が戻ります」というものだった。
 それから、やはり、本拠の事務所は他の都道府県にある事業者が、地方の公共施設に出向いてきて、一時的な相談会を開催。その広告を新聞に折り込み、テレビラジオで広報する。
 利息制限法という法律は、第二次世界大戦が終わってから10年も経たない1954年に制定されて、それ以来、法定利率は変えられてこなかった。利息制限法制定以来、本来、この制限利率を超える利息をとることは、違法であり、その違法な制限利率超過利息は、受け取った方が「不当利得」のお金、すなわち、過払金になるのが、一貫して原則だったはずであった。そこを曲げて例外として制定された貸金業法が、かつて43条1項「みなし弁済規定」という、サラ金を取り締まるはずの法律の中の、サラ金に甘い汁を吸わせる規定を作った。しかし、それでも、あくまでそれは例外であり、利息制限法を超えて取られた利息は、「不当利得」として返されるべきだ、というのが原則のはずだった。
 しかしながら、1980年代後半から1990年代には、この原則を貫くことすら、難しかった。貸金業者を被告にして不当利得返還請求訴訟を起こすと、担当の簡易裁判所判事から、「ゼロ和解」にしませんか(つまり、「貸金業者とご依頼人様と、貸し借りなしということにして手を打ったらどうか」)、と電話がかかる。一蹴したいが、ご依頼人様の意向を無視して独断で拒絶するのは越権行為だろうから、やむを得ず報告すると、「それでいいです、それで十分です。」と言われてしまう。社会正義の観点から、こんな業者に利得を保持させるべきではないのに、と切歯扼腕したことが一度ならずある。
 そういう状況が、消費者の立場に立った同業者各位の粘り強い努力の末、打破された結果が、最高裁判所の貸金業法に関わる判決であり、法改正だった。
 テレビラジオCMの解禁と、この貸金に関わる大きな転換とが重なって、洪水のような「過払金が戻ります」テレビCMがやってきた。別に過払金の取り戻しは、テレビラジオのCMをする事業者ではなくともやっているし、地元の身近な専門家が取り扱っているのだが、情報量の差か、CMを流す事業者の方に客は流れたのだろう。
 知る限り、莫大な広告費を使ってCMを流す事業者の中に、消費者の立場に立って粘り強い努力をした末に、最高裁判所の貸金業法に関わる判決や、法改正を勝ち取るのに貢献したと思われる同業者各位が含まれているようには、思われない。
 そして今。未だに「過払金が戻ります」というテレビCMを続けている隣接業者などがいる。貸金業法の改正と前後して、合法的な貸金業者は、利息制限法に違反する利息を取ることをやめ、それから10年を経たから、消滅時効期間との関係で、クレジットカードで過払いがあるということは、今やほとんど虚偽広告に近いんじゃなかろうかと思うのだけれど。大丈夫なのだろうか。
莫大な負債を抱えて破産宣告を受けた法律事務所も出たけれど。
 そして、目先の利く事業者は、もはや、「過払金が戻ります」ではない。
 肝炎の国家補償や、基地の騒音訴訟。騒音訴訟では、従来の基地訴訟弁護団とは異なり、決して騒音問題の抜本的な解決と考えられる、飛行差し止めは求めない、と聞く。専ら損害賠償請求をするのみ。
こういう問題に取り組みますというCMの主の皆様の中に、果たして、困難な中で国などとの間で、地道な損害の主張立証をしたり、法律論を闘わせるなどして、勝訴判決を勝ち取るという形で、道を切り開いてきた人たちは、含まれているのだろうか。